儚い朧月

射干玉の 夜に浮かびし 朧月 わたる風にて 花と散りらむ

ぬばたまの よるにうかびし おぼろづき わたるかぜにて はなとちりらむ

静かな夜。艶のある闇夜の湖面に朧月が浮かんでいる。
そのとき、突然の風で湖面が波打ち、映っていた朧月も花のように散ってしまった。

艶のある闇を纏った夜。
静かな湖畔に映るのは、空高く淡く輝く朧月。

空と湖の境界線がどこなのかわからないくらいの闇ではあるが、湖面の月は静かに寄せる波で形が変わっていくのが見える。

全ての音が吸収されてしまうような夜。

虫の声やフクロウの泣き声や木々のざわめきはあるものの、そこにあるものは、静寂。
都会では考えられないほどの静寂。

無音ではない。
無音では、真の静寂にならない。

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なぜなら、音がないということは、寂しさも感じられないのだ。
周りの音を聞いて、その音の中で寂しさを感じられるからこそ、静寂なのである。

そして、ここは静寂に包まれている場所。

夜の闇に包まれてそんなことを考えていたら、急に風が沸き起こり、静かだった湖面が急にざわめき始め、静寂が破られる。
静かだからこそ映っていた朧月は、まるで花を散らすかのように消えてしまった。

風が止み、また静けさを取り戻した湖面には、先ほどと変わらぬ朧月。
まるで何事もなかったかのように、ただ月を映し続けている。

今までも、これからも、ずっとこうやって続いていくのだろう。

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